企業内キャリアと人事管理

人事管理の担い手としての職場管理者

人事部門

人事制度の設計等を通じて、

人事管理に深く関わる。

 

職場管理者

部課長などの職場管理者も

評価・教育・仕事意欲の管理など

人事管理を広く行う。

管理者でない社員も後輩へのアドバイスなどで

人事管理の一端を担っている。

 


現場管理者が人事管理を行うのは、一定の合理性がある。

  ⇒各職場でのメンバーと仕事について情報を持っているため

 

人事部門はなぜ必要か

本社人事部  ⇒ 正社員の採用や事業所間の配置転換に強い権限を持つ

事業所人事担当⇒ 非正社員の採用について裁量権を持つ

 

人事部の強い権限への批判的意見:

・配置転換は社内公募制度で部門と本人の調整で行われるべき

・人事部門は研修や求人・福利厚生等に役割を限定すべき

 

事業部に人事管理を完全に任せた際の問題:

・優秀な部下の抱え込み(部門間の異動が滞る)

・非正社員の処遇制度の整備ができない

 

社員格付け制度の変化

社員格付け制度の役割:「偉さ」の基準

社員格付け制度は、人事制度の骨格 「偉さ」の秩序を明確にし、基本給を決める基準となる。

 

社員格付け制度 

  ├─年功制度  (年齢や勤続年数に基づく)

  ├─職能資格制度(職務遂行能力に基づく)

  └─職務等級制度(職務の価値に基づく)

 

格付基準の要素:

➀企業に対する貢献度(公平観)

➁努力に応じて変化する

➂ある程度、安定的であること

 

年功制度は➀➁➂をある程度満たしている

 

社員格付け制度の多様性と変化

欧米:職務記述書を作成→職務評価→等級を決定

日本職務遂行能力

   1960年代以前は年功制度。技術革新の中でベテランの技能の価値が低下。

   職務遂行能力に基づく職能資格制度が導入された。

 

職能資格制度は、職務等級制度とは異なり、賃金と切り離されている。

賃金水準を変えることなく、仕事への動機づけを与えられるという利点あり。

 

変化のなかの採用

新卒と中途採用

新規学卒者

新卒を正社員として採用する慣行は、日本の特徴。

企業内の教育訓練で伸びる人材かが重視される。

良質の人材を安定的に数多く採用できるルート。

 

中途採用

職業経験を通じて習得した技能が重視される。

 

近年日本では、中途採用の比重が高まりつつあるが、

依然として新卒の正社員採用が中心であり今後も重要な採用ルートである。

 

正社員の雇用保障と採用

期間の定めのない雇用契約を結んだ社員を解雇することについては強い規制がある。

解雇により人材を入れ替えることは容易でないため、

正社員の採用については採用基準を高く設定し慎重に人選する。

長期間共に働くコミュニティのメンバーであるので人格的な要素が重視される。

 

採用プロセスと募集ルート

➀募集活動

 求人情報誌・新聞広告・自社HP・ハローワーク・職業紹介サービス・縁故採用

➁選考

 筆記試験・面接

➂雇用契約締結

 採用内定

 

企業における教育訓練

教育訓練の意義と種類

意義:

技能は、時間の経過とともに変化する。

経営戦略の変化、技術革新の結果、技能の価値が低下することも。

技能の価値を維持向上するために継続的な教育訓練が欠かせない。

 

種類:

➀OJT(On the job training):仕事を通じて行われる訓練

➁Off-JT(Off the job training):企業の指示で仕事から離れて行われる研修など

➂自己啓発:自発的な読書や通信教育受講など

 

・OJTが中心。仕事のニーズに即応した技能を習得するのに優れている。

・Off-JTは、知識を整理した形で体系化して提供されるため短期的に知識を得られる。

 社内外の専門家を講師とすることで、仕事では得難い知識を得られる。

 職場外の社員との交流の機会にもなる。

 

教育訓練コストと訓練投資

教育訓練の提供はコストがかかる。一時的に生産性が低下する。

直接的な費用の他、仕事から離れた分、機会費用も発生する。

 

技能が高まり生産性が向上することで、やがて負担した費用以上の利益を得る。

 

教育訓練の投資規模は、期待する効果が大きいほど大きくできる。

近年では非正社員への教育訓練も実施されている。

 

日本企業における配置転換とその変化

配置転換の目的

業務変動への対応

要員過剰な職場から要員不足の職場へ配置転換を行い、業務量に合わせた要員調整を行う。

 

人材育成

幅広い仕事を経験させることで適性を見極めるとともに、技能の幅を広げる

 

やりすぎると

・専門性がなくなる

・教育訓練の費用がかさむ

 

配置転換の新しい仕組み

日本企業の特徴

配置転換について企業側が強い権限を持つ。(人事・ライン管理者)

雇用を長期に補償する代わりに、解雇を避けつつ要員調整が行えるよう

配置転換の強い権限が認められてきた。

 

英米企業の特徴

社内公募制度が配置転換の主な仕組み。本人に希望を踏まえて行われる

 

<変化の要因>

・1990年代以降、不況下での人員削減を経験して、雇用保障の信頼は揺らぎつつある。

・賃金の成果主義化

 企業が一方的に決めた職場に社員を配置しておきながら、成果主義の名のもとに

 業績低下を理由に賞与を減額するようなことがあっては、社員の不満が高まる。

 

日本においても、自己申告制度社内公募制度など、

働く側の希望を反映させる仕組みを用意する企業が増えている。

 

転居を伴う配置転換がない正社員の区分を設ける企業もある。

ただしこの区分は昇進できる役職が低く設定されていることが多い。

 

昇進・昇格の変化と企業内キャリア

昇進・昇格と選抜の機能

【昇進】:下位の等級から上位の等級に移行すること

【役職昇進】:役職が上位に移行すること

【昇格】:社内の格付が上位に移行すること

 

社員の職務遂行能力に基づき格付する職能資格制度が一般的

昇進の機会を与えることで仕事へのインセンティブを与えることができる。

 

「遅い」選抜と昇進管理の課題

日本企業は英米と比較して、昇進の選抜が入社後、遅い時期に行われる

<メリット>

➀多くの社員に長い間、昇進を目指して努力するインセンティブを与える

➁多くの社員に昇進を前提とした教育訓練を行い、技能の底上げができる

➂長期にわたり複数の評価者で評価できるので公正性が高い

<デメリット>

➀有能な人材向けの経営トップ層の育成が早期にできない

➁役職昇進しない社員にも管理者育成訓練を広く行うため費用がかかる

➂キャリアの後期になって昇進の可能性がないことを悟り、失望・意欲減退する。

➃キャリアの早い段階で、昇進に見切りをつけ転職する機会を阻害する

 

役職昇進とは別に専門職としてのキャリアルートを設ける企業も多い。

 

昇進への期待が持てない多くの社員の意欲をいかに維持するかが人事管理上の大きな課題となる。

 

人事評価と「成果主義」

人事評価の機能

人事評価:

社員の能力・意欲・成果などを評価し、賃金・昇進・配置転換・能力開発などに

役立てるための手続き。(同義:人事考課、査定)

 

人事評価の存在が仕事へのインセンティブとして機能している。

 

納得度を高める取り組みが重要。

 

評価時の注意点

➀「ハロー効果」特に優れた特性や特に劣った特性があると、総合的な評価が大きく影響を受ける

➁「寛大化傾向」評価者が自分の評価に自信が持てないため寛大な評価をつけてしまう

➂「中心化傾向」評価結果が中位に集中してしまう

 

こうした問題を抑え、公正な評価のために考課者訓練が欠かせない

 

人事評価基準と目標管理制度

<評価基準>

【能力評価】:能力(技能)を評価

【情意評価】:取り組み姿勢や意欲を評価

【職務評価】:仕事の価値を評価

【業績評価】:業績を評価

 

評価基準の設計は、社員に期待する行動指を示すことになる。

 

<目標管理制度>

成果主義の下で広く普及しているが、負の側面もある

・成果は個人の技能や意欲のみでなく、配属された職場や市場環境など外的要因により左右される

・短期的な成果を重視しすぎると目先の業績達成に走り、将来のために投資する行動をとりづらくなる

 

このような負の影響を考慮して、人事評価に占める成果による比重を小さく抑えたり、

賃金への短期的な反映を行わない企業も少なくない。

 

企業の賃金管理と「年功賃金」

「報酬」としての賃金と「コスト」としての賃金

賃金は、やりがい・人間関係・上司や同僚からの評価・労働時間の短さなどの

中で最も重要な動機付け要因。

 

賃金は企業から自分への評価のシグナル

賃金の額自体よりも評価としての賃金が持つ意味の方が意欲に影響を与える。

 

企業は、意欲・定着・採用などの効果とコスト負担のバランスをみて賃金管理を行う。

 

基本給は、社員格付制度と密接に結びついている。

 

【職能給】:職務遂行能力に応じて賃金が決まる仕組み

【職務給】:職務の価値に応じて賃金が決まる仕組み

 

「年功賃金」の合理性

年功賃金は日本だけでなく職務給が一般的な英米のホワイトカラーでもみられる。

 

年功賃金の根拠として

(生活保障仮説)社員の生活の安定を図ることを重視し、年齢と共に増加する生活費に合わせている

(能力反映仮説)年齢や勤続年数に応じて技能が向上し、貢献度が高まる

(賃金後払い仮説)長期の定着を図るため、働き盛りのときは貢献度からみて低めの賃金水準とし

        キャリアの後期で貢献度から高めの賃金水準とする

 

多様化する雇用区分の管理

雇用区分とは

雇用する社員を呼称の異なるいくつかの区分に分け、異なる人事制度を適用すること。

 

【正社員】:期間の定めのない雇用契約を結び、長期雇用を前提とした区分

      1985年の男女雇用機会均等法への対策としてできた区分↓

      「総合職」⇒転勤あり、昇進の機会あり

      「一般職」⇒転勤なし、昇進の上限が低い

      近年では

      「ナショナル社員」⇒転勤あり、昇進の機会あり

      「エリア社員」⇒転勤なし、昇進の上限が低い

 

【非正社員】:有期の雇用契約など必ずしも長期の雇用を想定しない区分(無期もあり)

       「パート」「アルバイト」「契約社員」

 

雇用区分を分ける目的

・教育訓練の体系を用意

・処遇のしくみを適用

・キャリアについての希望に応じ、キャリア形成の機会を与える

・労働時間の長短など多様な働き方を提供する

 

それらを社員個別にオーダーメイドすることも可能だが、管理が煩雑になり

コストが増大するため、雇用区分を設け、同じ雇用区分についてはある程度

均質に管理を行うことが効率的である。

 

非正社員の活用と人事管理

「正社員」と「非正社員」の違い

法律上、明確な違いがあるわけではなく企業が取り決めた区分。

有期契約の正社員、無期雇用契約の非正社員などもあり。

 

一般的には

「正社員」は無期雇用契約・フルタイム

「非正社員」は有期雇用契約・パートタイムであることも多い

 

非正社員を企業が活用する目的

・数量的フレキシビリティを確保(変化する労働需要に合わせる)

・賃金の節約(一般に正社員より賃金が低い)

・技能を持った人を社外から採用する(教育コストの節約)

 

非正社員の活用と人事制度上の工夫

非正社員に仕事への意欲を持たせるための工夫として次のようなものがある

  1. 技能や仕事内容を評価する賃金制度
  2. 勤務の時間帯・曜日・労働時間を選べる仕組み
  3. 正社員への登用制度