環境の経済評価

環境を価格付けする意義

市場では

 効用が上がる場合はお金を払う

 

 効用が下がる場合はお金をもらう

 

外部性を持つ「環境」は、価格を持たない

  価格を持たない=価値がない?

 

 

環境」:価値があるのに価格がない

  市場財は価格を持つが,非市場財は価格を持たない。

 

 

 

 森林を開発してリゾートを作る

 開発する人→もうかる

 自然保護したい人→かけがいのない森林 (値段がつかなきゃわからない)

 

非市場財の価格付け

市場財の価格決定理論

 供給曲線と需要曲線が交わる場所で価格が決まる

 実際には価格と取引量が既知である

 

非市場財(環境財)の価格付けの考え方

 

 価格のないものに価格をつける

 環境サービス → 数量はわかっている。

 

・需要曲線アプローチ

  需要曲線がわかれば、価格が決まる

  →利用する側がどのくらい満足しているかで決まる

 

 

・非需要曲線アプローチ

  供給曲線がわかれば、価格が決まる

   →もし作るとしたらいくらかかるかで決まる(総工費の積算)

   →壊してから元に戻すにはいくらかかるか

 

環境経済評価手法

需要曲線アプローチ

・CVM (Contingent Valuation Methods) 仮想市場法

 どんなものにも値段を付けられる    1990年代に急速に普及

 仮想的な市場を作る  →表明選好法の一種 表明させる・言わせる選好法

 アンケートで値段を聞く

 

 <デメリット>

 アンケート自体のバイアス

  どういうサンプルを取ったのか(特定の新聞読者?)無作為性

  雑誌の読者

 CVM特有のバイアス  どんなものでも測れる

  ①戦略バイアス

   ・アンケートの主催が誰かが回答に影響する、インタビュアの印象

     →主催者にとって好ましい回答をしてしまう

   ・環境に関心があるか

     →環境に関心があることをアピールするような回答になってしまう

   これらを回避するために、質問の順番などアンケートの作り方が議論されている

 

  ②部分全体バイアス

   質問者は具体的な場所について聞く 白神山地などについて聞いているが

   回答者は森林全般について回答してしまう。

    例)渡り鳥の数を変えても金額の差がでない。

      渡り鳥全般について回答しているため。

    例)琵琶湖の水質保全

 

  ③支払い手段バイアス

   あなたならいくら払いますか? 現実味のあるストーリーで質問する

   強制的に取られるため、税金だと低く答えたくなる。

   自分の意志で払う寄付ならそのバイアスが避けられる。

 

  ④範囲バイアス→2項選択法

   環境サービスにあたなはいくら払いますか?

   相場がわからない。 記述式は答えてくれない→選択肢にする

   選択式の落とし穴→回答者の相場観が変わってしまう。

   「1000円」払いますか? Yes/No → 情報が少ない

   2段で同じことをやる(2段階2項選択法)今はこれが主流

      これで範囲バイアスがだいぶ除去される

 

 

・TCM(Travel Cost Methods)旅行費用法

 顕示選好法 の一種→顕示させる選好法(行動を観察する)客観的

 交通費、滞在費等、訪問に要する費用を環境評価とみなす方法 

 観光地の評価ができる(どこから来たか、何日いるか)

 旅行費用を払っても観光地に行く、つまり環境地のサービスを購入する

 機会費用(仕事を休んだ)も考慮する

 <デメリット>

 訪問できないと測定できない。

 評価対象の限定が困難な場合がある(京都)

 近隣在住者の過小評価

 

 

HPM(Hedonic Price Methods)ヘドニック価格法

 顕示選好法 の一種→顕示させる選好法(行動を観察する)客観的

 地価賃金等の市場価格データに含まれる環境評価分を抽出する手法。

  1. 市場価格データの説明要因を厳選。説明要因に環境データを設定。
  2. 回帰分析にて各説明変数の係数を推定
  3. 環境変数の係数が環境評価となる

 <デメリット>

 説明変数を分析者が自由に選べる(モデルビルダーの腕の見せ所でもある)

 地価や賃金のデータがある場所でないと評価できない

 

台形になってしまう。市場財の価格+効用まで含んでしまう。

非需要曲線アプローチ

・RCM(Replacement Cost Methods)再生費用法

 

 費用(代替市場)から評価する。

 環境サービスを人工的に再現する場合にかかるコストを計測(積算

 都市工学(土木工学)の貢献

 

 川なかりせば

 川の機能(農協用水、工業用水、運搬、レジャー等)

 

 <デメリット>

 代替市場を評価するので、対象物そのものの評価ではない。

 対象物の機能を調査者によって異なる

 代替市場の選択の時点で恣意性が入りうる

 

Total Cost 代替市場

↑市場財と同じ形となる。つまり経済学上、唯一正しい評価額。

 

 

アプローチ メソッド名 選好法 内容 メリット デメリット

需要曲線

アプローチ

CVM

仮想市場法 

表明

選好法

アンケートで

値段を聞く

どんなものでも

評価できる

バイアス

が多い

TCM

旅行費用法

顕示

選好法

交通費、滞在費等

訪問に要する費用を

環境評価とみなす方法

 

訪問不可=測定不可

評価対象の限定が困難

複数の目的地

近隣在住者の過小評価

HPM

ヘドニック価格法

顕示

選好法

     

非需要曲線

アプローチ

RCM

再生費用法

再生の積算をすることで

代替市場から評価する

古典派の自然価格

経済学的に

唯一正しい

評価額

代替市場の

選択に恣意性

環境価値

総経済価値(TEV)Total Economic Value

 →市場価値がゼロの場合、消費者余剰(CS)に等しい

 

 

消費者余剰(CS) こそが

総経済価値

 

 

需要曲線アプローチは

消費者余剰を見出すもの

価値額を出しているのではない

 

価値の分類

【利用価値】┬ 直接価値 直接使う価値(木を伐採して木材にする)

      └ 間接価値 (森林の保水機能、CO2を吸収する)

 

【非利用価値】─ 存在価値 使用しないので市場価格がない 

             顕示選好法では測れない CVMのみ測定可能

 

 

【どちらでもない・どちらでもある】

      遺贈価値 → 子や孫が使う価値(将来の地球)

      オプション価値 → 後で使う価値(おいしいものを後で食べる)

 

これらが一体となってTEV(Total Economic Value)を構成する。

消費者余剰(CS)はこのようなもので構成される。

 

 

 

WTP と WTA

・WTP(Willingness To Pay,  支払意思額)権利を得るとき

・WTA(Willingness To Accept,受取意思額)権利を手放すとき

 

  経済学では両者は同額になるので区別されない

  環境経済では → WTA > WTP 

   心理学的説明:別離の悲しみ(大)・出会いの喜び(小)

   経済学的説明:幾何学的にグラフ上で証明できる

 

  CVMのガイドライン→WTPで質問する

            WTAだと莫大な金額になる。

 

CVMに関する論争

環境政策そのものというより,質問方法の工夫・洗練化がCVM研究の中心となってしまった。

 

CVMの評価・意義付け

・自然環境に関する価値観形成?

・直接民主主義の一形態?  →投票すればいい 答えにならない

・「正しい環境評価額」とは?社会的受入れ可能性が重要? →受け入れがたい

・費用便益分析に利用できるほど確立した手法でない

・環境経済統合勘定(SEEA)での利用は理論的に矛盾する。 →グリーンGDP

 

環境の経済評価と経済学における「価格」

・新古典派:需要価格,供給価格,均衡価格

・古典派 :市場価格,自然価格(生産価格)

・「公正価格」…「正しい価格」(アリストテレス『政治学』)

 →古典派アプローチの「固有価格」「自然価格」「重心価格」