経営学総論Ⅰ → ゲーム理論・交渉術

ゲームの類型

意思決定のタイミングによる分類

【交互進行ゲーム】:例)ピッチャーとバッター

【同時進行ゲーム】:例)イングリッシュオークション、じゃんけん

 

プレイヤーの人数による分類

【2人ゲーム】

【3人ゲーム】

【多人数ゲーム】

 

 

利害衝突度合いによる分類

【ゼロサムゲーム】

あるプレイヤーの利益が増えれば、その分だけ他のプレイヤーの損失が増えるゲーム。

 

 

【プラスサムゲーム】

あるプレイヤーの利益が必ずしも他のプレイヤーの損失に結びつかないゲーム。

相手と協調することでWin-Winがあり得る。

 

【マイナスサムゲーム】

両者の利得の合計がマイナスになるゲーム。ビジネスでは可能な限り避けなくてはならない。

 


情報量による分類

【情報対象ゲーム】

ゲームのルールや自分の状況を各人が完全に把握しているゲーム。

例)完全市場 落ち着くところに落ち着く

 

 

【情報非対称ゲーム】

一方が完全には把握していないゲーム。

 

 

 


同時進行ゲーム(1)絶対優位の戦略・絶対劣位の戦略

【絶対優位の戦略】

他のプレイヤーがどの戦略を採用したかに関係なく、自分は常にある一定の戦略を取った方が高い利益を得られる場合、その戦略を絶対優位の戦略という。

 絶対優位の戦略がある場合は、相手の選択にかかわらずその戦略を選択すべき。もう一方のプレイヤーは、相手が絶対優位の戦略を取ることを前提に考察すればよい。

 

【絶対劣位の戦略】

他のプレイヤーがどの戦略を採用したかに関係なく、自分にとって最も利得が少ない戦略を絶対劣位の戦略という。

絶対優位の戦略が存在する場合は、誰もその戦略を取らないので除外して考えればよい。

 

 


同時進行ゲーム(2)囚人のジレンマ

【囚人のジレンマ】

各プレイヤーが絶対優位の前略を選択すると、協力した時より悪い結果を招いてしまうゲーム。

プレイヤー間で協力の約束ができたとしても、常に裏切りの動機を内包している。

囚人のジレンマを回避するには、「裏切れば報復する」といった罰則のメカニズムを入れるとよい。

 

この観点からすると、競争入札の談合はごく自然なことである。

 

 

同時進行ゲーム(3)男女の争い

協調して行動することに各プレイヤーは同意しているが、協調の仕方には違う考えを持っている同時進行ゲーム。

 

ナッシュ均衡

不本意ながら陥ったベストではない均衡点。

いずれたの均衡点に到達すると、自分ひとりでは選択肢を変えることはできない。

変更するインセンティブが働かないからだ。

両プレイヤーが協力して選択肢を変更することによってのみ、双方にとって望ましい均衡点に到達できる。

 

例)夫はボクシング、妻はミュージカルを観たい。

例)民間はA判、官庁はB判。

 

 

同時進行ゲーム(4)混合戦略

【純粋戦略】:ある1つの打ち手のみをとること

【混合戦略】:ある確率に基づいて、自分の取る行動をランダム化する戦略

例)サッカーのPK 確立〇%で右に動くキーパーに対して、

確立〇%でどちらに打てばシュート成功率を最大化できるか。

 

 

ミニマックス定理

マクシミン戦略とミニマックス戦略

ゼロサムゲームでは、相手の最大利得が最小になるように行動するのが常道。

【マクシミン戦略】 :自分の最小利得が最大となる戦略。

【ミニマックス戦略】:相手の最大利得が最小となる戦略。

 

片側の マクシミン 戦略によって与えられる最小利得の最大値と

相手のミニマックス戦略によって与えられる最大利得の最小値が一致する

これをミニマックス定理という。

 

※ミニマックス定理は、ゼロサム2人ゲームのときに成立する。

 

ゲームの転換

自分の戦略を宣言することで、同時進行ゲームを交互進行ゲームに転換する。

特に絶対優位の戦略がある場合、それを取らないことを宣言することでゲーム環境はがらりと変わる。

他にも下記のようなゲームの転換が考えられる。

  • 情報非対称ゲームから情報対称ゲームへ
  • 単一争点ゲームから複数争点ゲームへ
  • ゼロサムゲームからプラスサムゲームへ
  • 2人ゲームから3人ゲームへ

 

交渉の類型

交渉者の人数 2者間交渉 交渉相手が明確で戦略を立てやすい。
3者間交渉 利害の共通するものが連携するためパワーゲームの要素が加わり複雑になる。
争点の数 単一争点交渉 交渉者の関係は対立的。利害が真っ向から対立すると妥協点を見出せず決裂する恐れがある。
複数争点交渉 ある争点について譲る代わりに他の争点で妥協を引き出すというように協調しながら妥協点を探す。

交渉者の

意思決定権

単層的交渉 交渉者のみで最終結論を出せる。
複層的交渉 交渉者に決定権がなく、組織の承認が必要な交渉。

交渉者の

力関係

シンメトリック

交渉

交渉者の力関係は対等。

アシンメトリック

交渉

交渉者の一方の力が極端に強い。親子間交渉、上司と部下など。

弱者は強者以上に自分の最低妥協可能ラインを意識しておく必要がある。

交渉構造分析の基本概念

【限界値】:

これ以上譲歩することはできない最低限度。

例)売り手ならこれ以上安くは売らない。買い手ならこれ以上高くは買わない。

 

【ZOPA】:Zone of possible agreement 

妥結する可能性がある範囲。互いの限界値のオーバーラップ部分。

 

【BATNA】:Best Alternative to Negotiated Agreement

不調時代替案。交渉相手から提示されたオプション以外で最も望ましい代替案。

 

【参照値】:妥結点を決める際などに参考にする数値。

 

【目標値】:交渉者が目指す妥結点。現実的な目標値のイメージを持っておく。

 

 

 

 

交渉と説得の3層構造

「感情」「論理」「利害」という3つの要素を交渉妥結に導く3層構造と呼ぶ。

 

感情

交渉はまず相手の感情を理解するところから始まる。

自分の存在が無視されたり、軽んじられたり、不当に扱われたと感じた場合、

交渉内容が何であろうと相手に理があろうと人は納得しないもの。

交渉が難航した場合、原因が内容そのものなのか、どう扱われたかが関係しているのかを探る。

問題と人間を分けて考え、相手という人間を肯定する。

 

 

論理

交渉で合意に至るには何らかの「正当な理」が必要である。

客観的で多くの人が納得する規範のようなもの。 例)論語、ことわざ、〇〇学など

 

相手が納得するのは、相手の持っている論理。

相手がどのような論理を持っているかを柔軟な思考で探る。

 

 

利害

利害の設計が必要。

交渉が行われるのは、交渉しない場合に比べて双方にとって利得があると信じられているから。

したがって基本的にWin-Winを目指しているといってよい。

ということはプラスサムゲームであると信じさせなくてはならない。

 

 

相手が納得するのは、相手の持っている論理。

相手がどのような論理を持っているかを柔軟な思考で探る。

 

 

交渉の準備プロセス:4ステップアプローチ

  1. 交渉構造の把握
    相手組織の分析、組織からの要求、組織の力関係、争点の構造を整理しておく。
    優先順位をつけトレードオフを検討しておく。
  2. 相手の心象風景に立つ
    相手が重要と考えているものを探り、それに働きかける。
  3. 自分のミッションの確認
    特に複層的交渉の場合、どのようなミッションが与えられているかを確認。
    上司に掛け合い権限委譲してもらうことも必要かもしれない。
  4. Win-Winの落としどころを探る。
    Win-Win or No Deal
    Joint Profit Maximization(満足度の合計が最も高い状態にすること)がベスト。

 

交渉を妨げる心理バイアス

【立場固定】:

環境変化などによって合理性を失っているにもかかわらず、

最初の決断を正当化しようとしてそのまま堅持しようとする。

例)一度始めた公共事業は中止できない。

例)自分が採用した人員は優秀だと思いたい。

例)新規事業は、投下資金を回収するまでやめられない

 

【埋没費用】:Sunk Cost

過去の選択によりすでに発生したコスト。

埋没費用が大きいほど柔軟な意思決定ができなくなってしまう。

 

【アンカリング】:

値引き交渉する場合、最初の言い値を思い切って安くいった方が、最終的な妥結額は安くなる。

最初の提示がアンカーとなり、交渉結果に影響を与える。

アンカーには何らかの根拠が必要。

 

交渉の諸戦術

【脅し】(Threat):

1回限りの関係で、かつ 自分に望ましいBATNAがある場合に有効。

  例)金を返してもらえないなら裁判沙汰にする。
BATNAをどう演出するかが重要。 これによって新たなZOPAができることも。

 

【瀬戸際戦術】:

自分と相手を悲惨な選択肢(瀬戸際)に立たせ、相手にこうたいを余儀なくさせる手法。

※合理的に考える相手に有効。自ら破滅するような相手にはNG。

 

【良い警官/悪い警官】:

意図的に悪者を作ることで、自分は話のわかる人物としてふるまい、相手の妥協を引き出す。

 

【Foot in the door technique】:

一貫した態度を取りたいという心理を利用し、最初に簡単な依頼をし、徐々に要求を吊り上げていく。

 

【Door in the Face technique】:

最初に過大な要求をし、断られたあとに少し小さなことを要求をすると、すんなりと通りやすい。

 

【返報性の原理】:

ちょっとした貸しを作って、お返ししなくてはと思わせて大きな見返りを得る。