第2章 経営分析の予備知識

用語

【クリーンサープラス関係】

損益計算書の最終損益と貸借対照表の純資産の増減額(増減資・配当を除く)が一致する関係のこと。会計において当然の原則であるが、金融ビッグバン以降国際会計基準が徐々に導入されていく過程において、この関係が崩れた。

時価主義を重んじるIFRSは為替損益や有価証券の再評価による損益は事業に基づくものはでないことから損益計算書に計上しないため、クリーンサープラス関係が崩れたが、現在は包括利益の導入によりクリーンサープラス関係は保たれている。

 

【包括利益】

資本取引を除く、すべての純資産の変動要因

 

  当期純利益 = その他包括利益 + 包括利益

            ├その他有価証券評価差額金

            ├為替換算調整勘定

            ├繰延ヘッジ損益

            ├退職金給付に係る調整額

            └持分法適用会社に対する持分相当額

 

 

【ビッグバス】

将来の業績に悪影響を及ぼす可能性のある項目を一期にすべて費用化し、翌期以降の経営の健全性を確保しようとすること。いわば膿を出し切るという考え。

一旦業績は悪化するが翌期にはV字回復したような恰好となる。これは主に業績の悪い期に行う。業績悪化の原因を前向きな特別損失計上によるものという印象付けをする効果も期待できる。

具体的には、不良債権・不良在庫・のれん一括償却などを特別損失として計上する。

 

データの収集

➀統計資料

企業外部のものでも、いつでも入手できる分析資料が増えたため、

機関投資家などと個人の間に情報格差ではなく、情報処理・解釈能力の格差になっている。

 

決算公告、有価証券報告書、事業報告、四季報、東洋経済新報社、

帝国データバンク、東京商工リサーチ、公官庁から

有料や無料で様々なデータが提供されている。

 

➁見分資料

  1. ヒアリング:経営トップから経営方針、経営哲学を聞きながら人柄、力量を判断
  2. 実地視察:本社、工場などを視察し、従業員の勤務態度、モラル、活気、設備の操業状況を見る
  3. 側面調査:企業外部の者がどう見ているかの調査。メインバンク、取引先、同業者などから評判を聞く。

➂財務諸表

財務諸表は決算書とも呼ばれる。有価証券報告書や事業報告の中に組み込まれている。

有価証券報告書は、金融商品取引法に基づいて約4450社で作成されている。

事業報告は、会社法に基づいて日本の企業250万社すべてが作成している。

 

比較性

比較性があるものの間で比較する。次のようなことを留意する。

 

➀業種の特性

同じ業種・産業で比較する。

「資本集約型」「労働集約型」「技術集約型」など企業のタイプによって

損益計算書、貸借対照表の構成や意味が異なる。

スーパーは、資産合計に対して売上と仕入が大きい。

鉄道は、有形固定資産に対して売上が低い。資本集約型。

商社は、投資有価証券、関係会社株式、長期貸付金など投資勘定が大きい。知識集約型。

ホテルは、利益率が高い。仕入れは少ないが減価償却費のウエイトが高い。

建設会社は、代金回収期間が長いため、流動比率が高い。

ITシステム会社などの技術集約型企業は、有形固定資産は少ない。

 

➁多角化経営

企業は様々な多角化をしているて、単一事業だけしか営んでいない企業は少数派。

神戸製鋼は鉄鋼は半分以下、日立造船は造船のセグメントさえない。

これを製鉄業、造船業とひかくするのは必ずしも適切とはいえないが、

事業内容が全く同じという同業者は少ないことから、分析実務においてはある程度事業内容の相違を無視して比較せざるを得ないことも多い。

 

➂比較相手

業界トップなど世界最良のものと比較し、ギャップを埋め、改革する経営手法をベンチマーキングという。

経営分析においても平均と比較するばかりでなく、優良企業との比較も重要。

 

➃季節変動

貸借対照表は、決算日や四半期末の数値で期中の状況を示すものではない。

損益計算書は、年間の通算の収支を示すだけなので、四半期を見ないと変動は見えない。

季節変動の大きい産業の企業を分析するには、どの時期にあるのかを念頭に置く。

季節変動が大きい産業は、エネルギー・リゾート・デパート・スーパー・アパレルなどがある。

 

➄事業・期間の変更

決算期変更や合併・買収・事業譲渡・会社分割・子会社売却などが行われると財務諸表は連続性を欠く。12か月に換算して分析する。

 

➅会計処理や表示の変更

いわゆる「継続性の変更」でよく行われる。会計方針の変更や表示方法の変更がされた場合は、過去に遡って財務諸表が修正される。

 

➆会計処理方法の相違

会計方針が企業間で同じとは限らない。

減価償却における定率法と定額法。

棚卸資産評価における先入先出法と平均法 など。非上場企業は、国の事情が強く影響している。

 

※違いは違いのままで比率を計算し、数値を解釈する際にそれらの違いを考慮するのが現実的である。 たとえ会計処理方法に違いがあっても長期的には同じ結果となる。細かいところにこだわるあまりに大局を見失ってはならない。会計処理方法の違いにさほど神経質になる必要はない。

 

➇利益操作

恣意的な利益計上が行われることがある。正しい会計処理であっても利益額の決定には経営者の意思が反映されている。含み益のある有価証券や土地の売却などに注意し、実質的な利益額の把握に努めるべき。「利益はカメレオン」

 

➈報告会計の限界

会計基準に準拠していても金融商品が簿外となることもある。時価が簿価を下回っていることもある。

土地を時価評価している企業もあれば取得価格のままの企業もある。

 

➉比率の解釈

比率の高低で一概に良し悪しを判断できるものではない。

 

例)

・流動比率が高いことは支払能力は高いが投資効率が低い資産を多く保有しているので収益性の面では好ましいことではない。

・有形固定資産回転率が高いことは収益性の面ではよいが、設備が古いか消極的な経営で将来性に問題があるかもしれない。

 

財務比率は正しい質問をするのに役立つのであって、正しい答えを出すことに役立つわけではない。

 

比率の算式

比率の名称が同じだからといって計算式も同じとは限らない。

 

業界集計・平均との比較

比較基準として平均を使うときは要注意。

代表値として平均が相応しいか中央値、最頻値も踏まえて検討する。

 

比率の特性